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インタビューバックナンバー
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佐々木俊尚氏インタビュー
[更新日2011/05/19]
「キュレーターによる情報革命 ~情報流通の今と未来~」第4回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
 『ブログ論壇の誕生』『電子書籍の衝撃』『キュレーションの時代』などの著者である佐々木俊尚氏は、IT業界・メディア業界のビジネス動向や未来像を鋭く分析する気鋭のジャーナリストです。著書だけでなく、雑誌やウェブメディアを中心に幅広く活躍されています。今回のインタビューでは、電子書籍市場の現状と未来像、Twitterやフェイスブックをはじめとするソーシャルメディアにおいて存在感を増しつつあるキュレーターの役割など、ウェブを取り巻く生態系がどのように変化していくのかお話いただきました。※本原稿は、2011年4月7日に行われたインタビューに基づき作成しています。
■フローとストックの情報から、最先端と世界観を得る
― インターネットのサービスや技術について、次に来る大きな潮流を、佐々木さんご自身はどのような方法で掴み、テーマにされていくのか教えてください。
 それはとても重要な点で、情報には2種類あると思っていまして、それはストックとフローです。フローの情報は膨大な量が日々流れています。実際今、グーグルリーダーを使って読んでいるニュースサイト、ブログなどは、日本語と英語のものを合わせると大体700サイトくらいあります。1日に1,200記事くらいの未読数が流れているわけです。見出しだけチェックして1,200くらい、その中から数十本の記事を読んで、さらにその内の2割から3割くらいの記事をツイッターで紹介しています。こういうやり方でフローの情報をこなしているんです(*19)。
 先端の情報はすごく必要なのですが、多分それだけをやってしまうと情報に溺れてしまうと思います。例えば、「iPadが発売されます」というニュースがあったら、「すごい」で終わってしまうわけです。iPadが発売されること自体、それはそれで個人的には気になるけれど、私が興味を持つのは、それ以上にiPadみたいなタブレットデバイスが出てきたことによって、世の中や我々の業界がどう変わり、更にそれによって社会や文化がどのように変容するかということなんです。そういう論考をするためにはフローの情報だけでは足りないんですよ。
 そこで、ストックの情報を使います。ストックの情報は何かというと、基本的には本です。紙でも電子版でも何でも良いんだけど、まとまった世界観が提示されているものをきちんと読みます。私は本をすごくたくさん読んでいるんです。月に10万円以上は買っています。哲学書、政治学の本、歴史書、あるいは普通にビジネス書も読みますし、文学も読みます。ストックの情報で培っている世界観が非常に重要です。
 本は殆どがネットで見つけたもの、キュレーションされたものです。膨大な数のブログを読んでいると、この人のブログは信用できるよねというものがあって、そういう人が結構本を紹介しているんです。そこで紹介されている本を見ると、これは面白そうというものがありますし、たまにしか見ないブログでも斬新な視点で本を紹介していると、どんどんAmazonで買っています。Amazonだけでも月10万円から15万円になります。
 けれども、本を読む時間をとるのが大変なんです。基本的には、ぱらぱら読みはあまりしないことにしていて、旅行に行ったときとか、本を読む日を決めたりとかして、まとまった時間を取って集中的に読んでいます。
― 速読術などは身につけられているのでしょうか。
 いや、ないです。ビジネス書とかは速読でもいいと思うんですけど、そういう風にして読める情報は別にWebで十分なので、しっかりした良い本をなるべくピンポイントで見つけて、きちんと読むというやり方がいいんじゃないかと思います。読みにくくて苦労する本もあるので、最初の50ページくらいを読んでみて、これは駄目だなと思ったら読むのをやめます。なるべく良い本にきちんと当たるということが大事だと思います。
■インターネットのソーシャル化は、市民社会の原点「コーヒーハウス政治」に似ている
― 佐々木さんの本には「IT」を中心にしたものと、それと相互に関係し合うと思いますが、『ブログ論壇の誕生』(2008年9月)、『2011年新聞・テレビ消滅』(2009年7月)、『マスコミは、もはや政治を語れない』(2010年2月)など「言論」そのものを扱ったものとがあるように思います。日本国内の言論、あるいはインフォコモンズ(情報共有圏)(*20)について、どのような可能性、あるいは課題があると分析されていますか。
 世論とか論壇とかはマスメディア上で形成されるのが当然で、ネットに移るなんてあり得ないと思っている人がものすごくたくさんいます。ネットはノイズが多いということも言われます。しかし、非常に長いスパンで見ると、実はマスメディアが公共権を握ったのは18世紀くらいのことで、ここ200年くらいのことでしかないのです。
 なんでそんなことが起きたかというと、歴史を辿ればとても簡単な話です。そもそも市民社会というものがイギリスやフランスで成立したのが17世紀の終わり頃から18世紀の初め頃なんですが、それまでの政治は貴族政治だったので、宮廷の中で政治が行われていました。王様と貴族による政治です。
 それから徐々に産業革命が進行して、ブルジョワジーと呼ばれる商人の層が生まれると、彼らが政治に参加するようになりました。彼らは宮廷のメンバーではないので、結果的に宮廷の外側にあるカフェとかコーヒーハウスと言われる場所で議論をするようになり、そうした議論そのものが宮廷の政治に反映されるという状況が17世紀終わりに生まれたのです。市民政治の出発点として、当時よくコーヒーハウス政治と言われました。
 しかし、産業革命が更に進行すると、これが成り立たなくなった。貧しい労働者階級がどんどん中流化していき、彼らが発言するようになるわけです。そうすると、政治の参加者が膨大な数に増えていきますよね。コーヒーハウスではとても収容できない数です。今までは何百人、何千人で済んでいた政治を、何十万人、何百万人、何千万人でやらなきゃいけなくなったのです。
 そのような背景から仕方なく、コーヒーハウスやカフェの代替物として、マスメディアである新聞が生まれたわけです。これが、マスメディアが公共圏を握ることになるまでの大雑把な流れ(*21)です。
 現代はどうか。インターネットという優れた、非常に細分化された情報流通基盤をもう少し洗練させることによって、かつてコーヒーハウスやカフェで行っていたことをネット上でやることが十分可能になってきています。例えば一つの問題に関して、その問題に詳しい人あるいはその問題に関するステークホルダーが、ツイッターとかフェイスブック(*22)とかを使ってネット上で議論することが既に可能です。新聞を経由する必要がなくなってきているのです。
 単なる大衆化により生まれ、市民政治の代替物として存在していたマスメディアをわざわざ温存させる必要はなくて、再び我々は、新聞が生まれる前の、まさにコーヒーハウスやカフェでやっていたような政治を行う時代に戻っている可能性もあるんじゃないかということなんです。しかも、テクノロジーによって、ほんの少人数ではなくて、膨大な数の人たちが相互に関係するやり方でできる時代です。マスメディアは完璧だと思っている、あるいは理想の姿だと思っている人が多いのは間違いないのですが、今、我々はテクノロジーによる政治の変容の第一歩に立っているという現状認識です。
■今は、ネットの言論が世論になる時代への過渡期
― ソーシャルメディアの重要性が増す一方で、危惧についても書かれていたと思いますが、ソーシャルメディアを活用する上での問題点はどのように克服できるとお考えでしょうか。
 そういう話になると、精神論に行ってしまったりするわけです。「リテラシーを高めることが大切だ」とか、「情報モラルを教育しましょう」とか、そんなのうまくいった試しは過去に一度もありません。結局アーキテクチャーで解決する話なのではないでしょうか。インターネット自体のシステムがまだ洗練されていないんです。
 例えば、ツイッターが今回の震災で情報流通に非常に役に立ったということが言われています。実際、地震発生当初の段階で、自分や家族、友人などが生存しているかどうか確認する手段としてツイッターが極めて有効だったし、マスメディアに流れていない情報や専門家が発信した情報を流す手段としても有効でした。
 一方で、ものすごくデマが流れたわけです。さらに言えば、デマを抑止できなかった。だから、ツイッターは駄目だという話が出ています。しかし、それはツイッターが駄目だったのではなくて、ツイッターだけでは情報流通の基盤としては不足があるということなんです。要するに、RT(リツイート)で拡散されれば、デマがどんどん拡がっていくのは仕様がないわけで、別の情報流通基盤が存在し、ツイッターと相互に連動させることで、デマではない正しい情報をきちんと押さえることができるようにする必要があると思うんです。それはフェイスブックみたいなものかもしれないけれど、まだ日本ではフェイスブックは600万人くらいにしか使われていなくて、全然普及していない。多分、ツイッターの3分の1程しかユーザーがいないと思います。将来的には様々なソーシャルなメディアが複合的に使われていくことによって、今までのネットの問題が解消されるような、トータルとしてそういう生態系ができてくる可能性はあると思います。そういう意味では過渡期なんです。
― その生態系はマスメディアに取って代わる影響力を持ってくると。
 十分その可能性はあると思います。今でもツイッターで盛り上がるとそれが政治に反映するようなことが、民主党政権になってから徐々に始まっていますよね。更に加速して、つまりマスメディアが世論調査をして出てきたものが世論ではなくて、ネット上で盛り上がり、それがフィルタリングされた言論が世論になっていく時代が間違いなく到来すると思います。既に韓国ではそうなっています。
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*19 『ひと月15万字書く私の方法 ITジャーナリストの原稿作成フレームワーク』(2009年6月)や『仕事するのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ』(2009年7月)で、佐々木氏の知的生産の方法が公開されている。
*20 佐々木氏が『インフォコモンズ』で提唱した概念で、情報共有圏のこと。情報を軸とした他者との相関関係により、それぞれの個人が「なめらかに」つながり、新たな仲間、新しい共同体を生み出す。このような個人と社会との新しい接続方法について、まだSNSやツイッターが十分に普及していなかった当時に予測していた。
*21 『ブログ論壇の誕生』の「はじめに」でも、ドイツの社会学者ユルゲン・ハーバマスによる公共性の歴史と理論に関する著書『公共性の構造転換』が紹介されている。詳しくはハーバマス全巻を参照。
*22 詳しくはフェイスブック全巻を参照。
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