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渋澤健氏インタビュー
[更新日2010/04/28]
「次世代に紡ぐ想い。~滴から大河に。渋沢栄一の教え~」第3回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
 日本資本主義の父といわれる渋沢栄一(※1)の五代目にして、新しい資本主義の在り方を社会に問い、「滴から大河に」(※2)を実践する渋澤健氏。30年先を見据えた長期投資を掲げ、2008年9月にコモンズ投信を立ち上げました。次代に向け、渋澤氏は何を思うのか。また、渋沢栄一の「論語と算盤」を読み解いた渋澤氏の経営思想をお聞きしました。
■コモンズ投信のスタートアップと資本政策
―インキュベーターとしての関心から教えていただければと思いますが、コモンズ投信を立ち上げるために、どうやってチームをつくり、ファイナンスをしたのでしょうか。
 メンバーについては、きっかけはいろいろあるんですけれども、信頼できる同じ目線をもった仲間であることが前提ですよね。2006年の年末から1年ぐらい、創業メンバーとブレストをして、2007年11月にコモンズの準備会社を立ち上げました。その後の1年間は、なんとなくぼやっとした構想を、金融当局への申請書に落とす作業でした。もちろん、実際にビジネスとしてどのように実践していくのかということを整理しました。最初の1年は、ベンチャー企業でいうシードステージのようなもので、当然自分も投資資金を出しました。2008年6月には、設立メンバー以外で、自分たちの知り合いからエンジェル的な投資資金を募り、増資をしました。現時点での株主は40名ぐらいです。
―株主の方々は、投資信託のお客様と重なるのでしょうか。
 必ずしもそうではないですけれども、一部そうですね。シードの段階では、まだ商品のプロトタイプもありませんでしたし、ファンドもないので投資してもらうこともできなったため、我々がやりたいことに共感してもらった方に株主になっていただきました。これは、どのベンチャーも同じだと思います。その後、実際に投資信託のファンドが設定されてから、株主の方々の中でファンドに投資をしていただいた方もいます。直近の増資では、会社だけでなく、ファンドにも同時に投資をいただいている方もいました。
―コモンズ投信の資本政策では種類株式を使われて、創業メンバーの株式と次のファイナンスでの株式を分けたと伺いました。資本政策については、どのようなお考えをお持ちでしょうか。
 これは、ちょうど同じようなタイミングで資本政策を実施されたので、経営共創基盤の冨山和彦さん(※10)のところを参考にさせていただきました。さわかみ投信の澤上さんの話を聞くと、最初から大勢の株主がいると大変だなと思いました。かといって、株主1人あたりの出資額を一定規模にして、ファンナンスをまとめるのは現実的ではないなという思いもありました。どうしようかなと思って、冨山さんのところを見てみると、種類株を活用して議決権を分けていたんです。実際にやってみた感想としては、少しややこしかったかもしれないなと思いました。なぜかというと、やはり勝手に増資はできません。要するに、株主総会決議に参加できないと言っても、既存株主の保有する株を希釈化させるとか、価値が下がるようなことをやろうとした場合、種類株主の決議が必要です。増資をするには、種類株を保有している人にも聞かなきゃいけない。当然ですよね。
―結果としては、役職員の方々あるいはシードマネーを提供された方で50%以上のシェア(持株比率)を維持されているということでしょうか。
 直近の増資をする前まではそうでした。
■企業と対話するファンド
―ファンドマネジャーは、渋澤さんや社長の伊井哲朗さん(※11)ではなくて、吉野永之助さん(※12)がなさっているんですね。投資決定の仕組みについて、お伺いできますでしょうか。
 そうですね。吉野が運用チームを仕切っていて、彼らが投資候補先を見つけてきます。その後、投資委員会をして、投資を実行するかどうか決議しています。投資委員会は、僕や伊井を含めた5名で構成されます。銘柄を挙げてきて、すぐに投資をするわけではなく、相当な議論をして、全員一致で意思決定をしています。
―一番肝心なところですけれども、30年投資の手法として「30年、30社、対話中心」(※13)ということを掲げています。私もベンチャー投資をしているので非常に興味深いのですが、「対話」によって企業価値を高めるということは簡単なことではないですし、とても深いテーマだなと感じました。この「対話」についての考えを、お聞かせいただけないでしょうか。
 2000年ぐらいに、村上世彰さん(※14)とかスティールパートナーズ(※15)とかが、物申す株主として登場してきましたよね。それによって、ガバナンスの議論が起こりました。「会社は株主のためのもの」とか、「社員のもの」とかいろんな議論があったじゃないですか。だけど、一方的に物を言われると、会社がどんな状態であっても聞いている経営側は疲れてしまうと思いますし、物申し続ける方も壁に向かって言い続けているようだと疲れてしまいますので、あの関係性は長続きしないんじゃないかと思ったんです。ファンドの世界では、ファンドレイジングのときのプレゼン資料を読むと、「我々はこんなすばらしい人間です。だから企業価値をつくります」ということがよく書いてある。だけど、ファンドって企業価値をつくるのかというと、僕の答えは「NO」なんです。なぜかというと、企業価値をつくっているのは、企業の経営者と従業員ですし、会社の商品やサービスを評価して実際に購入・購買してくれる消費者ですよね。BtoBの会社であっても、最終消費者がいなければビジネスが成り立たないので、最終消費者が重要だと思います。
 最終消費者は、消費活動をした結果、満たされたり満たされなかったりします。場合によっては、企業に対するバッシング行動に走ったり、クレーマーになったりすることもある。だけど、「30年の目線でこの会社を応援しましょう」と最終消費者が投資家となって、お客様としても投資家としても360度その企業を見ることによって、そのときそのときのクレームではなく、長期的な視野に変わると思います。ファンドの運用者として我々が企業を見る角度がありますが、お客様は違う角度で見るかもしれない。お客様の声を集約して、我々を通じてマネジメントに伝えることによって、経営とお客様とのキャッチボールができて、結果的には企業の価値創造につながると期待しています。
※10 冨山和彦氏 株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEOで、企業再生のスペシャリトと言われる。BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)を経て、コーポレートディレクション設立に参画、代表取締役社長を務めた。2003年、産業再生機構の設立にあたり、COO就任。2007年、IGPIを設立し、現職。主著にマネックスグループ代表の松本大氏との共著「この国を作り変えよう日本を再生させる10の提言」(講談社)など。
※11 コモンズ投信株式会社 代表取締役社長 伊井哲郎氏
山一證券で営業企画部に約10年間在籍。マーケティング、商品戦略などを担当、その後、機関投資家向け債券セールス。メリルリンチ日本証券、三菱UFJメリルリンチPB証券にてミドルマーケット及びウェルスマネジメント業務を約10年間経験。2008年9月にコモンズ投信代表取締役社長に就任、現在に至る。
※12 コモンズ投信株式会社 取締役CIO 吉野永之助氏
勧角証券入社、朝日投信に異動後、20年に渡り株式・公社債投信を運用。その後、米国大手運用会社キャピタルグループ入社。アナリスト、ファンドマネジャーを経て、日本法人であるキャピタルインターナショナル株式会社代表取締役に就任。2008年7月コモンズ投信取締役CIOに就任、現在に至る。世界的に非常に有名な長期投資の運用会社であるキャピタルリサーチを含めて40年という日本No.1の経験を誇るファンドマネジャー。
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