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佐々木俊尚氏インタビュー
[更新日2011/05/19]
「キュレーターによる情報革命 ~情報流通の今と未来~」第4回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
■佐々木俊尚から見た、起業家孫正義
― 昨年5月13日にユーストリームでソフトバンクの孫正義さん(*23)と5時間に渡る討論をされ大変話題になりました。『決闘 ネット「光の道」革命』(2010年10月)には、その時の模様が収められていますが、これまで多くの起業家を取材してこられた中で、孫さんについてどのような印象をお持ちでしょうか。
 あの討論は、さすがに後半疲れました(笑)。孫さんとお話したのは、あの時が初めてです。政府の委員で一緒だったことはあるのですが、話をしたことはありませんでした。孫さんについては本の中でも書いたんですけど(*24)、なんていうのかな、理論家ではないです。ものすごく緻密な分析をする人ではなくて、私みたいな分析とか論考とかで飯を食べている人間とは全然違う人種だなと感じました。普通の人間が持っていない、異様に野蛮なまでの実行力と決断力と熱意のある人だなとも思いましたね。こういうある意味乱暴な人が、日本を動かしていかない限り、今のような硬直化した状況は動かないんじゃないかと思います。言葉は悪いですが、暴君というか、乱暴者というか、そういう側面を持った人が必要ではないでしょうか。
 ただし、孫さん一人だけでやっていると暴走するので、周りにブレーンが必要だと思います。ブレーンをきちんと集めることができれば、ああいう人が実際にリーダーになると世の中は変わるかもしれません。
■『AERA』で3ヶ月に渡り東浩紀氏を取材
― ジャーナリスト、社会学者、思想家、起業家などで尊敬する人物を教えてください。
 尊敬という言葉があたるか分かりませんが、東浩紀(あずまひろき)(*25)さんに共感する点が多々あります。一語一語全てに共感しているわけではないのですが、考えている方向性とか、次の世の中がどうなるだろうとか、考え方の枠組みそのものが非常に自分と近いんです。去年の年末に『AERA』(2010年12月27日号)の「現代の肖像」という6ページの人物紹介の企画で東浩紀さんを取り上げた時、3ヶ月くらい取材したことがあって、それで彼についてよく知るようになりました。彼の思想をかなり詳しく調べて、勉強して、非常に共感したんです。それまでも勿論知っていましたけど、自分より10才くらい若い方で、オタク文化の分析をする人かなというくらいの印象しかありませんでした。あの取材を始めてから、全然そうではないと感じたのです。今の社会における東さんの位置付けが明確に分かっていなかったと思いました。実は非常に重要な人だと思います。基本的には、データベース型社会(*26)という言い方をしているのですが、要するに、既存の枠組み(物語消費)が崩壊する中で、どういう形で社会構造が変わっていくのかということを提唱している現代思想家であり、批評家です。社会構造がテクノロジー化していくところの発想が、自分に近いと思います。
― 特に影響を受けた書籍、映画などについて教えてください。
 本については社会学の本が好きで、見田宗介(みたむねすけ)(*27)さんの一連の本が好きです。社会学に興味を持ったのは30代の頃です。1990年代後半は、宮台真司(みやだいしんじ)(*28)さんがやってきたことのインパクトが強くて「まったり」とか「終わりなき日常」とか、なるほどそういう風に社会を見るのかと、結構新鮮な感動を受けました。
 映画では、『キリング・フィールド』です。ITやジャーナリズムに関心を持ったのは、学生時代に参加したパソコン通信上のオルタナティブな市民運動ネットワークだったことをお話しましたが、同じ頃、この映画を見たことが新聞記者を志した理由になりました。入れるところに入社して早く仕事をしたいと思って、あまり卒業する意思もなかったので、中退してしまいました。毎日新聞は学歴不問なので入社したんです。
■『オデュッセイア』から読み解く、100年後の本の姿
― 最後に、今後特に力を入れて取り組みたいテーマがありましたら教えて下さい。
 電子書籍についての本を、もう一回年末くらいに出そうとしていて、『100年後の本』という仮のタイトルも決めています。本という形態、コンテンツ、あるいは書かれ方が今後どう変わるのかということを、過去の印刷の歴史とか、更にもっと昔の言葉の出現とかになぞらえて考えていくことが可能かなと思っていて、その手の本を積み上げて読んでいる最中です。
 例えば、文字が発明される前は、口承文学でした。口承文学とはどんな文学だったかというと、記録が残っていないから誰にも分からないのですが、ホメロス(*29)の『オデュッセイア』や『イーリアス』は口承だったんじゃないかという説があります。それをホメロスという名前の人か別の人がまとめて叙事詩が作られたというのです。結局、口承文学は言い伝えで、どんどん中身が変わっていくわけで、ある意味、集合的な知識の修正というか、それこそソーシャルなんですよ。
 そういう口承文学における本のでき方と、ケータイ小説(*30)のでき方とが実はすごく似ています。携帯小説も読者と掲示板でやり取りしながら、その影響を受けて、内容が変わっていきます。現代の本というものは、口承文学のような集合的知識を集めたものではなくて、一人の作家の孤独な営みによって書かれるものだと思われているわけです。そのようなスタイルが2000年とか3000年とか続いてきたのですが、ひょっとしたら再び集合的知識を集約する伝承的なものが大きな形になっていく可能性があるんじゃないかということを考えているんですよ。口承文学って一体どうやって作られていたんだろうとか、あるいは文字がどのように発明され、記録されるようになったのかとか、そのようなことを知りたいのです。そして、徐々に知識を積み重ねていって、本にしていこうと思います。このテーマについては、書き下ろしになるかもしれないし、どこかで連載するかもしれません。
― それは壮大なテーマですね。出版を楽しみにしています。お忙しいところ、大変ありがとうございました。
佐々木俊尚氏のデスク(写真左)と本棚(写真右)の様子。佐々木氏の論考は、膨大なネット(フロー)の情報と本(ストック)の情報のインプットから生み出されている。
[撮影:大鶴剛志]
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*23 詳しくは孫正義全巻を参照。
*24 同書で「ソフトバンクはモンゴル帝国軍である」という一章を設け、13世紀にモンゴル大草原からユーラシア大陸までを制圧したチンギス・ハンによるモンゴル帝国軍の強さと勇猛さに、孫氏とソフトバンクをなぞらえて佐々木氏は記している。「野獣のような経営者が率いる、乱暴狼藉極まりない企業。それがソフトバンクだ。しかしそういう乱暴狼藉こそが、実は世の中を変えていく。従来のような調整型の決着だけでは、もうどうにもならないほどに日本の国力は衰退しはじめている」。野蛮なモンゴル帝国が世界の市場経済システムをつくり、後の世界史を塗り替えたように、孫氏のリーダシップに期待を寄せている。
*25 1971年生まれの批評家、作家。ポストモダン論からオタク文化などについて、現代社会・文化・思想に関する幅広い論考を展開。1999年、最初に上梓した『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』でサントリー学芸賞を受賞。2010年には、小説『クォンタム・ファミリーズ』で第23回三島由紀夫賞を受賞した。詳しくは東浩紀全巻を参照。
*26 東浩紀氏が提唱する「データベース消費」型の社会。東氏は、1990年代後半以降、日本社会における消費モデルが「物語消費」から「データベース消費」に移行していると提唱する。例えば、『機動戦士ガンダム』(1979年放映開始)と『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年放映開始)のファンの消費の仕方を比較し、ガンダムでは架空の歴史(大きな物語)に熱中したのに対して、エヴァンゲリオンでは世界観よりもキャラやメカニックなどの情報の集積が必要とされていると分析している。
*27 1937年生まれの社会学者。東京大学名誉教授。コミューン主義の立場からの著作で知られる(ペンネームは真木悠介)。主要著作に『気流の鳴る音 交響するコミューン』『宮沢賢治-存在の祭りの中へ』『自我の起源-愛とエゴイズムの動物社会学』『旅のノートから』『現代社会の理論』『時間の比較社会学』などがある。また、個人塾「樹の塾」を主宰。主要な著作をテキストにしながら、共同探求の集団を目指し、年1回のゼミナールを開催している。
*28 1959年生まれの社会学者で、前述の見田宗介に師事した。首都大学東京教授。映画批評家でもある。女子高生の売春とコミュニケーションの変遷を描写した『制服少女たちの選択』、オウム真理教事件を題材にした『終わりなき日常を生きろ』など、独自の理論で1990年代の社会を解析し、多くの賞賛と批判を浴びる。最近の著作には『14歳からの社会学』『〈世界〉はそもそもデタラメである』などがある。
*29 紀元前8世紀末、古代ギリシアの吟遊詩人とされる人物。現代においてもなお、ホメロスが実在したのか作られた人物なのか、はっきりしていない。トロイア戦争をめぐる二大叙事詩『イーリアス』と『オデュッセイア』はホメロスによる作品と考えられている。
*30 佐々木氏は『命の輝き』を書いた未来さんというケータイ小説家との出会いをきっかけに、『ケータイ小説家』(2008年10月)を出版した。同書では、10人のケータイ小説家へのインタビューを通じて、作家としての一途な思い、読者との間に生まれる共感や仲間意識、強い絆を描いている。
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