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[更新日2011/05/12]
「キュレーターによる情報革命 ~情報流通の今と未来~」第3回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
■キュレーションとは供給者や代理店の視点ではない
― メジャーとインディーズの境界がなくなるということは、作品の価値を見出し、紹介するキュレーターの存在がより重要になるということだと思いますが、キュレーターはアーティストが生み出した作品のマーケティングをも担っていくと言えるのでしょうか。
 それは違います。キュレーションというのはあくまでもデマンドサイドであって、サプライサイドではないんです。雑誌の編集と違うのかとよく言われるんですが、雑誌の編集者はサプライサイドですよね。キュレーションは、基本的に視点位置が需要側、ユーザー側に立っているので、そこが圧倒的に違うところです。自分にとって欲しいものを単に取り上げているだけなんです。自分にとって欲しいものを得ていて、それを自分だけの趣味にしておくよりも、これは良かったよと言っているだけで、これは良いから皆さん見て下さいという編集者の仕事とは全然違うんです。
― キュレーションする対象領域にもよるとは思いますが、優れたキュレーターに必要な資質や個性についてはどのようにお考えですか。
 あまりお金儲けにならないので、職業的なキュレーターというものの可能性は低いと思います。例えば、私がツイッターで震災に関する情報を流していますが(*18)、あれを売って儲けられるかというと、多分儲けられないと思います。そういう意味では、キュレーションはビジネスではないです。広告を出すような形での、企業のブランディングとしてのキュレーションというのはあるかもしれませんが。
 例えば、キャデラックという自動車のブランドがありますよね。アメリカの事例で、キャデラックがどこかのデザイン系のサイトと提携して、そのサイト上でキャデラックのブランドを紹介する記事をキュレーションするということをしました。そうすると、キャデラックにとっては、自分たちが持っている専門性を消費者に伝えることによってブランディングでき、サイトから見ると、情報の価値や質が上がり、当然読者からするといい情報が得られるというわけで、そういう使い方をするのは良いかもしれません。ただし、キュレーションの話をすると必ず、「ビジネスになるか」とか「プロのキュレーターは現れるか」といった話になりますが、それはマスメディア的な発想なので違うと思います。あくまで、需要側、デマンドサイドの話です。
 キュレーションの場合は、1個1個のマーケットが小さ過ぎます。例えば、誰も知らないけどいい音楽を見つけたとしても、それをいい音楽と思ってくれるのは、殆どの場合は何十人とか何百人とかしかいないんです。情報を発信したマニアックなミュージシャンと、それを受けて何百人かの間で共有すればいいわけですよ。そこに代理店が絡んでビジネスをしようとした瞬間にビオトープ(生息空間)が壊れてしまいます。代理店はどうしてもサプライサイドから抜けられないので、コントロールしようとするわけです。そういうのはキュレーションの世界には向かない。バジェットも小さいですし。本当にCDを100枚、1,000枚プレスして売るだけの、そういう世界なんです。マスマーケティングはマスマーケティングでそのまま残ります。多くの人が欲しいものや知りたいことは当然あるわけですから。マスはマスでやっていけばいいんです。そうではないものも全部コントロール化においてビジネス化しようというのは、受け入れられないと思います。
■テクノロジーと社会や文化との接点は何か
― 『電子書籍の衝撃』に登場するセルフディストリビューターの音楽家まつきあゆむさんや、『キュレーションの時代』での福井の小さな眼鏡店「田中眼鏡本舗」やアウトサイダーアーティストたちなど、佐々木さんの本にはどちらかと言えば「メジャー」ではない数多くの事例が紹介されていますが、それらは本のために意識して集められたものでしょうか。それとも、もともと関心を持っていたものでしょうか。佐々木さんは本で取り上げる様々なエピソードとどのようにして出会うのでしょうか。
 基本的に本に出てくる事例は自分の好みのものしかないので、ある意味、自分がやっていることをそのまま紹介しています。わざわざ本のテーマに合わせて、アウトサイダーアートを勉強したとか、聞き出したわけではありません。文化というのはそういうものではないでしょうか。興味あるものをそれぞれが小さくやればいいんだと思います。私は「テクノロジーと社会や文化との接点は何か」ということについて一番興味を持っていますので、興味範囲が無限に広がっていく感じです。
 世間にはテクノロジーを社会と切り離して考える人がすごく多くて、未だにツイッターとかやっているとオタク呼ばわりする人とか一杯いますよね。それに対してすごく違和感を覚えます。
 1970年代は「政治の時代」、1980年代から1990年代は「経済の時代」、2000年代以降は「テクノロジーの時代」とよく言われますけど、要するに何が時代の基盤になっているかということを示しています。今は、テクノロジーが物事をドライブさせる時代です。そうすると、社会だろうが文化だろうが、全ての分野にテクノロジーの志向、発想、枠組みが浸透してくることになるので、テクノロジーと社会がどう関係し、テクノロジーによって何が変わってくるのかということは非常に面白い分野だと思います。切り離して考えるのがそもそも間違っています。
[撮影:大鶴剛志]
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*18 佐々木氏はTwitter上で、大震災が発生した翌日の3月12日に「『傍観者』ではなく、義援金や節電や、さらにはソーシャルメディアで思いを届けることで『当事者』になる努力をしていくべきだと思います」とコメントした上、自らキュレーターとなって、毎朝、震災に関する情報をまとめて発信している。また、3月15日のツイートには「メディアリテラシーの低い家族や親戚に自分がキュレーターとなって非マスメディア情報を配信してあげる、という災害時の小さなキュレーション活動が必要なんじゃないかと思う」という、情報流通におけるキュレーターの必要性についてのコメントも見られる。なお、3月19日からは、Facebookのノートで「震災キュレーション」と題して、佐々木氏のツイートを一覧で見られるようにしている。
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