出井伸之氏インタビュー
[更新日2010/05/25]
「非連続の飛躍 ~ソニーの成長とクオンタムリープの挑戦~」第3回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
銀行に見られるような合併の場合、全部同じ機能を持って集まることになるので、雰囲気は良くならないですよね。猜疑心が強くなってしまいます。
一方、サムスンやエリクソンとは、レイヤー違いでソフト・アライアンスしています。補完関係ですから最終的にはうまくいきます。ソニー・エリクソンは10年も経たずに1兆円企業になりました。あまり注目をされていませんが、楽天(※21)の成長スピードより早いんです。
ソフト・アライアンスという僕の考え方は、結局コーポレートの支配権をとらないように合併するというものです。例えば、規模を追求する事業だけ提携して、他の事業は別々でもやる、というようなスタイルもありだと思うんです。もしそこで気が合えば、次の段階へ進むというやり方です。食うか食われるかという議論になってしまうと、事業メリット以外の感情まで出てきてしまう。今自分も大和クオンタム・キャピタル(※22)という会社をやっていますが、ジョイントベンチャーも結構難しいね(笑)。あと、中国の人がソフト・アライアンスを結構気に入っているみたいですね。
─これからソフト・アライアンスはますます増えていくのでしょうか。
ソフト・アライアンスという言葉は使っていませんが、色々なところでやっているのではないでしょうか。全面合併ではなくて、ウィン-ウィンな関係を作るアライアンスということですから、ソフト・アライアンスも様々な形に進化していくと思います。
■成熟期の日本がとるべき戦略
─ 日本経済、日本企業の国際競争力の低下を憂える声を多く聞きます。『
日本進化論』の中で、日本の進むべき道について、「環境国家宣言」「平和国家宣言」「文化国家宣言」など明確に示されています。今後の日本の進むべき道についてお聞かせいただければと思います。
それぞれ理屈がある話です。「平和宣言」はもう一度日本がきちんとしないといけないと思っています。私はアジアの国々に行く機会が多いんですが、第二次世界大戦の感情はいまだに残っていると感じます。「日本はあんなことを言っているけど、またいつか来るんじゃないか」という気持ちがまだあるわけです。日本は軍需産業をやっていないのですけれども、「平和宣言」をもう一度してから、軍需産業についても本当は考えていかなければならないと思います。軍需産業というのはヘビーデューティーなものです。コンシューマーだけじゃなくて、そういうものは、もっと周囲の国々からの信頼を得ていかないと、手を出せないところですね。さらにその信頼を強固にするためにも、環境や文化を大切にするということも宣言して、アジアの小さな国の人達にも積極的な教育支援とか、技術支援とか、医療支援とかをやっていく時期だと思います。
世の中には成長期の経済と成熟期の経済という2つのフェーズがあります。日本は成長期の経済を通ってきましたが、今は成熟期の経済に移っています。成長期と成熟期のリーダーシップは異なると思います。中国は成長期ですよね。韓国も成熟期に入る前の段階。日本は、明らかに成熟期にあるにも関わらず、成長期に必要な施策を打とうとしている。成長期への憧れのようなものでしょうか。
日本には、今やらなければいけないことが山積しています。成熟期は、文化が爛熟する時代でもあります。そういう産業がこれからの日本には必要になっていくと思います。成長期の人と張り合うのはナンセンスですよね。日本はもっと己を知った方が良い。日本が自分のことを分かって、変わることが必要だと思います。そうすると見方が全然変わってきます。民主党に期待することを、みんな成長戦略とか言っていますけれども、あれは成熟期の国家戦略と言うべきです。中国の成長におびえるのではなく、それはそれとして成熟社会で違う目標を探せばいいと思うんです。
[撮影:大鶴剛志]
※21 楽天グループについては、下記を参照。
※22 2009年4月、クオンタムリープと大和証券SMBCプリンシパル・インベストメンツで共同設立した投資会社。成長段階にある企業に投資を行ない、投資先企業の成長を主導する、新しいグロース・ファンドを運用。技術やブランドをもつ日本企業と成長力のある中国やインドを中心とするアジアの企業とを結びつけることにより、双方の企業価値を飛躍的に向上させることを目指している。
大和クオンタム・キャピタル株式会社HP