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渋澤健氏インタビュー
[更新日2010/04/14]
「次世代に紡ぐ想い。~滴から大河に。渋沢栄一の教え~」第2回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
■超富裕層からロングテールへ
―そうしますと、シブサワ・アンド・カンパニーとして独立された時点では、まだ投信ベンチャーをやろうとは思っていなかったのですね。
 全然、思っていなかったですね。投信から独立してヘッジファンドを始める人は、周囲にもたくさんいましたけれども、投信は自分の入る世界ではないと思っていたくらいですから。なぜかというと、投信は「組織」で運用する業態だと思っていたのです。でも、澤上さんという強烈な人とお会いしたことが、ひとつの大きなきっかけになったことは間違いないですね。こんな頑固な親父さんが、こんなすごいことやっているのかって。
―最初にお子様のために積み立てられたのも、澤上さんの投信だったのでしょうか。
 いえ、最初は、銀行で窓販をしている投信から始めました。積み立て型だし、目先儲けようということではなくて、いつか利が出ればいいという気持ちで、インデックス投信(※9)の日経225に投資していたんですね。
 ある日、ふと気づいたんですけど、なんで毎月2%の販売手数料を払っているんだろうと。もとの金額は小さいから、毎月の手数料は何百円でしたけれど。1回目は分かりますよ。でも、20~30年になるとかなりの金額に積み重なるなと思ったんです。目利きなどバリューをもらっていればいいんだけど、インデックス投資ですから、そのようなバリューはありません。ただの積み立てでしたので、なんで販売手数料を毎月払うんだろうと思いました。信託報酬も安くなかったんです。日経225は運用者の目利きが必要ないのに、なぜ高い信託報酬を払わなければいけないのだろうかと思うようになりました。
 2002年か2003年の頃だったと思いますが、澤上さんと初めてお会いして、販売手数料なしで、信託報酬もぎりぎりまで抑えていることを知りまして、1~2年ほど経ってから『さわかみファンド』に切り替えたんですね。売り側(投信の販売側)じゃなくて投資家側に立ち返る、と澤上さんがおっしゃっていたのですが、まさに商品設計に表れていると感じました。
―面白いですね。機関投資家や超富裕層の資産運用のお仕事をされてきて、インターネット的にいうとロングテールのようなビジネスを始められたということですよね。
 ファンドへの投資単位という視点では、確かにロングテールですね。
 機関投資家さんやファンド関係の人と話をしていて感じたのですが、皆さん非常に頭が良くて、紳士的な方々なんです。けれども、パッションが入っていないんですよ。一部の方は、情熱がみなぎっていたので、それは救いだったんですけれども、ほとんどの人は、やはり仕事として割切っている。「渋澤さん、それはいい話ですね。でも、組織を通せないんですよ」とおっしゃるのです。情熱に燃える担当だったら、組織を通すんですよ。本当にこれはやらなきゃいけないと思ったら、コミットメントして、組織でもやろうと動くんです。だけど、普通の人はそんなリスクを取りたくないから、結局何もしない。セミナーでそうした人たちを前にして話をしても、つつがなく、行儀の良い質問ばかりされることが多かった。
 澤上さんと出会ってから、個人投資家セミナーで話をする機会が何回かあったのですが、まず会場の雰囲気が違いました。会場にいらした方々が、みんな活き活きしているんです。専門家に比べれば、素朴で洗練されていない質問が多いのですが、みなさん好奇心が旺盛なんです。もちろん、的を射た質問もあります。何よりパッションを感じたんですね。だから、話をした後、個人投資家セミナーの方が気持ち良くなるんです。セミナーを通じて、個人投資家の方々と話すのは、非常に楽しいと感じました。
―楽しいとか、パッションがある人たちと仕事をしたいということが、そもそも背景にあるのですね。だからこそ、コモンズ30ファンドの基本理念にもあるように「おもてなし」とか、「商売の原理原則に立つ」ということが大切なんですね。投資をされているのはどういう方々でしょうか。
 個人投資家と言ってもいろんな方がいらっしゃいますよね。「長期投資」というメッセージを出すと、短期思考の方と線を引けるので、ある程度スクリーニングされると思います。また「長期」といっても、1年や2年を長期と考える人がいるかもしれない。そこで、「30年」という線を引いたんです。もちろん、30年間も投資が解約できないということではなく、いつでも換金できます。そうは言っても、30年というと精神的な壁があるので、なかなか手を出せないかもしれない。ですので、自分は30年間も投信を続けないのではないかと思っている人でも、投資いただいた方は、少なくとも1年や2年の短いスパンでは考えていないという人が多いと思います。
―最初から長いコミットがあって賛同されているから、短期間でどうこうという人はあまりいないんですね。
 そうですね。
 コモンズ投信に自分の使命感のようなものを感じています。冒頭に話したように、これから日本がどうなるかということを考えて、30年先のために今から少しでもいいから行動できる人たちが、1億3,000万人のうち何人いるのかなということを知りたいんです。1年ほどやってみて一つ分かったのは、北海道から沖縄まで全国にそういう方がいらっしゃるということです。今のところ、1億3,000万人分の1,300人ですから、全体の0.001%ほどです。それが増えていって、仮に人口の1割ぐらいはいると分かったら、時代は大きな変革を迎えるでしょうね。お互いに同じような考えを持った人がいることに気がつくだけでも、大きな変化につながるんじゃないかなと思うんです。もしかしたら、それが一番自分がやりたいことかもしれない。
[撮影:大鶴剛志]
※9 インデックス投信(インデックスファンド)とは、『日経平均(日経225)、TOPIX(東証株価指数)、MSCIコクサイ指数など市場の株価指数に連動した運用成績を目指す投資信託(ファンド)』のこと。
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