渋澤健氏インタビュー
[更新日2010/04/07]
「次世代に紡ぐ想い。~滴から大河に。渋沢栄一の教え~」第1回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
■「多様性」がキーワード
―一方、世界経済も激変していますが、今後の世界はどのようになるという見通しをお持ちでしょうか。
世界を考えると、少し大きな話になってしまいますけど、20世紀は一神教的なひとつの価値観によってすごく豊かになった世紀だったと思います。無駄や矛盾を省いて、合理的に生産性を高めてきました。それによって、日本やアメリカ、あるいは欧州といった先進国と呼ばれている各国が、概ね同じペースで豊かになった世紀だと思うんです。要するにグローバルスタンダードとはこういうものだと定義され、一つの価値観が共有されたのが20世紀だった。21世紀になると、日本みたいな成熟社会もあれば、中国やインドのように高度成長を続けている国もあり、成長するにはもう少し時間がかかるという国もある。そのような中で21世紀は、インターネットや携帯電話でみんながつながってしまった。20世紀では、お互いのことをなんとなく分かっているけど遠い国、という距離感がありました。でも今は、遠い国の誰かがインターネットを通じて目の前に現れてしまうという時代です。「お互いの存在がつながっている」ということは、逆説的に見えますが、21世紀のキーワードは「多様性」だと思うんです。
何かひとつの価値観が正しいということではなくて、いろんな考え方や価値観があると。多様性というとポジティブに聞こえるかもしれないのですが、言い換えれば、混沌とした時代だということです。ある意味軍隊的に、一つの価値観によってリーダーシップを発揮できる時代ではなくなってきたと思う。いろんな人がいて、まさにネットに象徴されるように、あるテーマではこっちでつながり、違うテーマではあっちでつながるというような社会になった。こうした社会のリーダーシップというのは、ひとつの価値観ではなくて、多様な価値観を持ちながら、こっちにいかなきゃいけないよね、と説得する力が必要とされます。リーダーシップを発揮するには非常に難しい時代に入ったと思います。多様性を取り込むような会社とか、社会でなければ、21世紀は繁栄できないのではないかなと思います。
―世界においては、日本も多様な価値観のひとつだということでしょうか。
そこがポイントなんですけど、日本ってもともと同質感というか、昔は日本人しかいないみたいな感覚があったじゃないですか。でも今は、日本自体がかなり多様化してきていますよね。
たとえば、身近なところでは小学校です。私の子供たちが通っている小学校は、私が小学2年生のときまで通った学校と同じなんですが、入学式の写真を見ると変化がよくわかります。私が子供のときの写真にはお母さんしか並んでいない。ところが、子供たちの写真を見ると両親ともに式に参加していたり、お父さんだけが来ていたりする。私のときは日本人の子しか並んでいなかったのに、今では外国人の子がいる。公立の普通の学校ですよ。実は、40年ぐらいの間で比較しても、かなり多様化してきていることが分かります。
もう一つの日本の特徴として、海外から入ってきたものを取り入れて自分たちのものにすることに長けているということが挙げられると思います。「論語」と「算盤」はもともとはどちらも中国ですし、仏教はインドですよね。食べ物で言えば、カレーパン、カレーうどんなんて、すごいですよね。組み合わせがめちゃくちゃじゃないですか(笑)。だけど、すごくおいしい。多様なものから良いものを取り入れ、混ぜ合わせても、なんとも思っていない。良い意味で、日本人はそういう感性を持っている。
21世紀は必ずしも日本が衰退するのではなくて、多様なものを受容するという日本人の感性が一番活かせる時代なんじゃないかと思うんです。そう考えると21世紀も捨てたものじゃない。ただ、今の日本人は、本来持っている自分たちの良さを忘れているのではないかと思います。
[撮影:大鶴剛志]