本田直之氏インタビュー
[更新日2010/03/27]
「無名の個人の時代 ~ビジネス書を読み、ビジネス書を書く~」第3回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
―ベンチャー企業の社長が書くことについてはどうでしょうか。
社長はあり。社長はある意味個人じゃないですか。社長で本を書ける人は書いたほうが良いと思う。やっぱり、会社名を売るよりも個人を売る方が早いですし、「その人がやっているこの会社ね」って知ってもらうことができます。会社名を売るのは本当に難しい。僕もバックスにいるときに本田っていう人間を知ってもらって、こいつがやっている会社がバックスね、となるようにしていた。バックスと言ってもよく分からない会社だなって思われるし、面白みを感じてもらえない可能性もあります。メディアに対しても、個人から入っていく。それで、「何をやっているんだっけ、ここの会社は」と思ってもらえるようにすると良いと思います。
―社長が本を出すのはありだけど、社長以外の人は個人で立ってからの方が良いのではないかということなんですね。
僕はそう思う。会社員の人が出して売れている本はほとんどない。中途半端にいろんなことをやるよりも、本業でがんばってきちんと成果を出してからやった方が良いと思います。オーナー社長は違います。ただ、面白くないものを出しては駄目。焦って出すのは良くないんですが、これは読んだ人にすごく役立つというものがあれば、出版したほうがいいですね。
■ビジネス書マーケットを読む
―ビジネス書のマーケットについては、どのように捉えていますでしょうか。
ここ数年の傾向として、多分、雑誌の売上は落ちていて、ビジネス書はとんとんくらい。ちょっと下がっているかな。細かくみてみると出版点数が非常に増えていることが分かります。ビジネス書は日に10冊、月に300冊出ていると言われています。点数が増えても、店の床面積が増えるわけじゃないから、毎日10冊出版されれば、毎日10冊捨てなきゃいけない。だから、新刊だけでもどんどん回転していくので、売れている本は常に置いてあるけど、売れなくなるとすぐに棚に置かれなくなる。そのため、売れない本が大量に出てしまう。売れる本は、1点集中でめちゃくちゃ売れるけれども、増刷がかからない本が確か9割くらいだったと思う。
そりゃそうですよね。毎日10冊も入ってくるわけですから、お店としては売れそうな本を店に並べないと駄目だし。売場のスペースが限られているから、店に置いたとしても平積みされずに棚に置かれてしまい売れなくなる。だから、売れる著者と売れない著者の差が格段に開いてしまう。最近は、ぽっと出た本で売れるものがなくなってきています。サラリーマンの人とかでも出版できる時代になったという意味では、本を出すハードルが下がってきたと言えます。出版社もブログとかで、無名の個人を見つけやすくなったということもあると思います。そのようにして新人作家を発掘してくるのですが、出版社も出版数のノルマがあるみたいで、担当ごとに何十冊という目標数が決まっているから、中途半端な状況で出版してしまうことがあるようです。ある意味、粗製濫造していると言えます。
■海外で活躍する日本人の変化(JBN(※9)の活動)
―ところで、本田さんはJBNを設立し、海外で活躍する日本人のサポートにも力を入れていますが、「無名の個人の時代」という「うねり」を感じられたのと同じように、海外で活躍されている方に、何か質的・量的あるいは他に感じられるような変化があったのでしょうか。
それはすごくありますね。昔、海外で活躍していた日本人は、ある意味一匹狼的な人が多くて、後から来た人を応援しない雰囲気があったんです。自分のテリトリーを侵害しないでくれという人が多かった。今でもそういう人はいるけど、お互いに協力できるところはみんなと協力してやっていこうという風潮に変わってきています。そこは日本人が海外で弱かったところだと思います。群れるのは好きじゃないという人もいるのかもしれないけど、やっぱり華僑が凄いなと思うのは相互の助け合いです。華僑同士の助け合いがあるから、それぞれが海外で活躍できているわけで、昔の日本人はお互いに蹴落とし合っていた感じがします。
―それは留学されていた頃も含めてですか。
留学生はそういうことはないんだけれど、商売をやっている人たちは多かった。そうじゃない人たちも勿論いましたよ。ただ、最近はこれまでの状況をなんとか変えていこうという思いを持つ人たちが増えていると思います。やっぱり華僑は凄いと。お互いにものすごく協力し合うから、みんなでうまくいくシステムがある。昔の日本人は、俺だけうまくいこうとしてやっているから、結果的にうまくいかなくなるということがあった。JBNがいろいろなところで開催できるのも、海外で活躍する日本人のなかにそういうニーズがあるからだと思います。
―大きな変化ですね。それは。
JBNでは、僕らが現地に行って単に講演会をやるだけではなくて、集まった人たちの交流会を必ずやるようにしています。JBNをつくるまでは、そもそもそういう集まりがなかったと言われてびっくりしました。大企業の駐在員の集まりや慶応や早稲田の卒業生の会は結構あるんです。だけど、自分で海外に出た人たちの半分以上は、何か商売をやっているような無名の個人の集まりです。そういう人たちが集まる場はほとんどなかったし、お互いに助け合う環境がなかったのですが、JBNを通じて環境づくりをしたことによって、ハワイでは定期的に開催されるようになり、ロスや他の地域でも開催されるようになりました。
※9 JBNとは
在留邦人ビジネスネットワーク(Japanese Business Network、略称JBN)
2007年7月、本田氏をはじめ、ベンチャー経営者でもあるベストセラー著者5名により設立された。海外在留邦人が増え続ける一方、日本人を対象としたインタラクティブなビジネス情報や交流の機会が少ないという現状を受け、これまで培ってきた自らのビジネス経験や知識をボランティアで提供し、海外で活躍する日本人起業家やビジネスパーソンをサポートしている。
■特別インタビューの掲載予定について
出井伸之氏 (クオンタムリープ株式会社 代表取締役)
ソニー株式会社創業者の井深大氏、盛田昭夫氏らとともに、世界的企業への発展の道を切り開き、同グループCEOを
務められました。