本田直之氏インタビュー
[更新日2010/03/20]
「無名の個人の時代 ~ビジネス書を読み、ビジネス書を書く~」第1回
聞き手 / PE&HR株式会社 代表取締役 山本亮二郎
―『FREE AGENT NATION』の話題が出ましたけれども、最近読んだ本のなかで特に印象に残ったものがあれば教えていただけますでしょうか。
無名の個人に対してのお奨め本とすると『
仕事するのにオフィスはいらない』という、佐々木俊尚さんがノマドワーキング(※3)について書いた本が良いですね。僕も実際どこでも仕事をできる状況にしたいと思ってずっとやってきたので、すごくしっくりくるし、知らないと損をする。会社に行かないと仕事ができないと思っている人はまだ多いと思います。そういう常識をどんどん捨てていかないといけない。
あとは、高城剛さんの『
サバイバル時代の海外旅行術』。タイトルには旅行術って書いてあるのですが、これもある意味ノマドライフスタイルみたいな本で、良いですね。この人のライフスタイルは、すごく正しいなと思います。
■「無名の個人の時代」を支えるインフラとしてのインターネット
―大企業で働くのではなくて、個人がスタバやキンコーズでビジネスをするようになったという変化、かなり劇的な変化だと思うのですが、そのような「無名の個人の時代」は、どんな背景によってもたらされたとお考えでしょうか。
やはり、インターネットの普及が大きいですね。この社会的変化の背景として、個人がインターネット上にセルフメディアをもてるようになったことがやはり大きいと思います。個人がビジネスを始めるときに一番問題になるのは、自分のブランディングだったり、営業だったりしますよね。でも、広告を出す体力(=資本)があるかというと、立ち上げ当初でそんな人はほとんどいないわけだし、自分を知ってもらうために昔できたことというのは、DMやFAXDMを送るくらいでした。それもお金がかかるし、大変なわけじゃないですか。インターネットが普及する以前に、自分でセルフメディアを作ろうと思ったら、それこそとんでもないお金がかかってしまっていた。ある程度有名な人でなければ、メディアに露出もできなかったと思います。
インターネットができたことによって、有名人でなくても、セルフメディアを活用して誰でも自分を表現したり、自分の成果をアピールしてブランディングしたりできるようになった。売り込まなくても営業活動がしやすくなった。インフラの革新によって「個人の時代」が後押しされたということが言えると思います。アメリカにいたときに、個人でビジネスをしている人を見て「こういう働き方もあるんだな」って思ったのですが、彼らが自分を売り込んだり、営業したりできるのは、近所の人くらいだろうなと思いました。実際、物凄くローカルな仕事をしていた。だから、個人では食べていけるけど大きくならない。ところが、インターネットができたおかげで、個人でしていたビジネスが一気に拡大してビックビジネスになる可能性が生まれてきました。
僕がアメリカにいるときに、ちょうどインターネットが普及し始めたんですが、当時はインターネットそのものでビジネスをやりたいとは思わなかった。それよりも、インターネットを使って、企業の効率をアップするとか、もっとサービスに付加価値をつけるとか、個人の働き方を変えるとかっていうことにすごく興味があったのです。いわゆるネットビジネスをあのときやっておけば、もっと儲かったかもしれないけど(笑)。それはそれで、僕が予想していた時代に近くなってきたかなと思います。
今後の社会について言えるのは、働き方が変わってくるということ。一つの会社にもっと拘らなくなるし、組織に属さなくても個人がビジネスをできるようになっているわけじゃないですか。ある意味自由な社会になってきたと言えます。場所の自由もできてきたし、時間の自由も結構できてきたのではないでしょうか。逆にいうと、自由をうまくコントロールできない人は、結構つらい時代になってくるんじゃないかなと思います。自由を謳歌するためには、それなりの責任やリスクをとっていかなければいけないですよね。あとは自分の力をつけることが大事。要するにプロのスポーツ選手みたいに、練習をきちんとしておかなかったら、レギュラーにはなれない時代になると思います。でも、努力していれば、すごい幅が広がるし、自由度も上がってくると思います。
※3 ノマドワーキング
遊牧民のような(ノマド)働き方(ワーキング)のこと。「仕事はオフィス(または自宅)でするもの」という固定概念を捨て、能率よく仕事をするために自分の都合、気分などに合わせて場所を移動しながら仕事するやり方。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏の著書『仕事するのにオフィスはいらない』で詳しく書かれている。