自由な市場経済で多くの人々はより良くなるか

12月 17日 | 投稿者:博士 | 書評
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競争と公平感 市場経済の本当のメリット競争と公平感 市場経済の本当のメリット

大竹文雄/著 (中央公論新社)

「市場による自由競争によって効率性を高め、貧困問題はセーフティネットによる所得再分配で解決することが望ましい」。これはどんな経済学の教科書にも書かれていることであり、そしてほとんどの経済学者が豊かさと格差解消を達成できると考えている組み合わせである。

それが日本では通用しない。アメリカの調査機関ピュー研究所によるグローバル意識調査(2007年)において、「貧富の差が生じるとしても、自由な市場経済で多くの人々はより良くなる」という考え方に賛成する人の割合は、多くの国で70%を超える(アメリカ、イギリスのほか、インド、韓国などのアジア諸国においても)。しかしながら日本での数値は49%であり、ドイツ(65%)やフランス(56%)といった比較的市場に対する信頼の低い大陸ヨーロッパ諸国や、中国(75%)、ロシア(53%)といった旧社会主義国よりも、市場のメリットを信頼していない。それどころか、特に民主党政権になって以来、小泉政権以降の自民党政権の行き過ぎた市場主義が国民生活や地域経済を疲弊させ、雇用不安を増大させたという考えが優勢になり、規制を強化しようという風潮なっている。
なぜ日本人はこれほどまでに、市場に信頼を置かないのか?競争を規制することで格差を解消し、公平な世の中を達成しようとする考えは正しいのか?
本書は核心に迫る重要な視点と議論を提供し、市場競争とのより良い付き合い方を提案している。

日本で市場主義が信頼されない理由の1つ目として、市場主義の誤った理解、すなわち大企業主義との混同を挙げている。これはシカゴ大学ジンガレス教授による研究の中で、アメリカには根付いた市場主義がヨーロッパには根付かなかった理由として述べられたものだが、日本の状況もよく説明するものとして、紹介されている。小泉政権時代を振り返ると、経済財政諮問会議の民間委員は、市場主義を代表する経済学者二名と大企業主義を代表する財界二名で構成されていた。
そして、郵政民営化に代表される「官から民へ」の政策においては、構造改革に携わった大企業関係者が利益を得たのではないかと、国民の多くが疑問に思うようないきさつがあった。筆者は、こうした経緯から感じた反大企業主義が、市場主義と大企業主義が混同されているために、反市場主義になってしまっているのではないかと指摘する。
また、もう一つの理由として、市場経済のメリットを伝え教育してこなかったことを挙げている。市場経済に任せると、最も効率的に商品やサービスが人々の間に分配されることがよく知られている。効率的であるということは、同じだけの資源がある場合に、私たちの生活は最も豊かになるということである。日本では競争のつらさや格差の発生という、市場競争のデメリットばかりがクローズアップされ、こうしたメリットが十分に認識されていないのではないか、との指摘である。
どちらも鋭い洞察力に基づく、説得力のある説明である。
それでは、市場競争のデメリットである格差の解消のためには、競争を規制することは有効なのだろうか。例えば、「派遣切り」として社会問題にもなった非正規雇用の問題では、労働派遣への規制が強化が進められている。しかしながら、規制強化は不安定な雇用という問題を解決しない。なぜなら、個別の規制強化はパートから派遣へ、派遣から請負へ、請負から個人事業主との請負契約へと、より規制の弱い雇用形態への移転を生み出すうえに、規制の対象となり雇用や待遇が保証された人とそれ以外の人の間に、格差を生むからである。
筆者は、他にも例を挙げながら、格差解消のために競争自体の規制を強化しても、多くの場合解決にならないと、説明している。

であるならば、我々は市場とどのようにつきあっていけばよいのであろうか。筆者はスポーツの上での競争やルールのあり方に、現実の社会との共通点を見出している。各競技団体は、一人勝ちを抑制する仕組みを常に作るべきとの考えに立ち、ルールや採点基準を設定、変更していく。突出した選手をつくらないことで、選手間での競争が真剣なものになり、ファンも感動するからである。そして選手は、ルールの中で創意工夫を行い、自らの戦略を立てて勝負に挑む。現実の社会も同様であると筆者は述べる。一つ一つのルールの設定や改正は、それが公平だと感じることもあれば、不公平だと感じることもあるであろう。しか
し、何を目的にルールを設定しているのかを人々が理解していれば、ルール改正に伴う人々の不公平感は減り、その改正を納得する人たちが増えるのではないだろうか。大事なことは、市場そのものが問題だと結論し、競争を否定するようなルールを設定するのではなく、市場競争がうまくいくルールを設定していくことではないだろうかと。

国民的関心事項について、幅広い知見の引用と緻密な考察で、深い理解を提供する一冊である。

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