経営戦略とコーポレートファイナンス
7月 16日 | 投稿者:i.takayama | 書評
本書は経営戦略とコーポレートファインナンスという、近年研究領域の細分化の影響を受け、別々に扱われることが多かった2つの視点から企業の経営政策について論じられている。ファイナンスや財務が苦手な人、経営戦略やマーケティング分析が苦手な人両面にとって、事案の立案~実行、結果の実例と、わかりやすい解説は今後必ず役に立つ事となるでしょう。
『経営戦略の方針と実践の進捗を総合的に評価する指標は、資本利益率であり、企業価値である。資本コストを上回る資本利益率をあげることで、企業は価値を付加することができる。』と本書の中で述べられている。
当たり前のことを言っているようではあるが、私は企業価値についてこうも断定的に述べられているところに衝撃を感じた。なぜならば、企業自身が企業価値=資本利益率という考えを持っていないことがあるからだ。しかしこの言葉こそが、結果として資本主義社会における企業の役割であることが本書を通じて実感するものとなった。
構成は10章に分割されている。
1章~5章は初心者にもわかりやすい説明で図表を用いながら理論的に述べられている。
ROEやDCF、ROICなどで財務面を図り、かつトレードオフの視点で企業に沿った有効な経営戦略を見つけていく。日本とアメリカ企業の事例や、理論と実務の乖離からみる現実的な日本企業の行動の評価についても示されている。
6章~9章は代表的な日本企業が実行に移してきた経営戦略とファイナンスに関する事例分析となる
これらのケーススタディが本書の肝となるところだといえるであろう。
ここでは以下3つの企業が登場する。
・東武鉄道のスカイツリー事業
・事業転換とファイナンス―富士フィルムホールディングス
・エーザイの成長戦略とファイナンス
出版は2013年10月であるが、その直前のデータも用い分析されているため、とても分析面にこだわりがあることがみえてくる。また、出版から数年経っているためこうして提示されている事業計画の結果を自身で分析できたり、現状との比較をできることも面白い点の一つであるといえるであろう。それぞれ財務戦略やM&A、海外成長投資、株主対応など近年日本の企業が直面している課題をいかにして解決へ導いているか、各企業がデータを駆使して戦略を組み立てているかがわかりやすく解説されている。最後の10章ではIRを扱っている。経営者と投資家の信頼関係を重視している総合商社などの事例を挙げながらIRの意義と経営課題を説く。
理論とケーススタディ両面から学ぶことができる本書は、ファイナンスの知識の有無に関わらず、ぜひ読んでみてほしい。