羽生善治著「決断力」
1月 21日 | 投稿者:takuya kishimoto | 書評本書は現役最強の棋士と名高い羽生善治氏の勝負術が披露されている本である。
対局後には頭の血管が膨れ上がり、頭皮が真っ赤になっていることもあるといわれる極めて厳しいプロ将棋の世界において圧倒的な成績を残し続ける天才羽生善治の勝負についての考え方は将棋の世界に身を置く人のみならず多くの一般の人にとっても参考になるように思う。
たとえば本書では知識を「知恵」に昇華することの重要性が書かれている。将棋には「定跡」という戦略のロードマップなるものがあり、戦法や戦形の知識を得るためにそれを覚えることが必須とされる。しかし羽生氏は定跡をただ記憶するのではなく、自分のアイディアや判断を付け加え、なぜそうなるのかをしっかり考えたうえでより高いレベルに昇華させていくのだという。これは「何かを覚える、それ自体が勉強になるのではなく、それを理解しマスターし、自家薬籠中のものにするーその過程がもっとも大事なのである」という考えからきたものである。「知恵」に昇華できていない知識は実戦では使えないのだという。これはすべての物事に共通する考え方ではないだろうか。自分の頭で考え悩んだ事柄ほどよく覚えているというのは私だけではないだろう。知識を「知恵」に昇華させることはすべてに当てはまる思考の原点であるといえる。
私が最も印象に残ったのは「才能とは同じ情熱、気力、モチベーションを持続することである」という羽生氏の「才能」についての考え方である。将棋の世界では一瞬の閃き、きらめきのある人よりも、さほどシャープさは感じられないが同じスタンスで将棋に取り組んで確実にステップを上げていく人のほうが結果として上に来ているのだという。報われない中で継続して取り組むことができるかどうかにその人間の本質を見ることができるということなのだろう。
そして一般の人にとっては馴染みの浅いプロ棋士界のさまざまな事情を垣間見ることができるのも本書の特徴の1つである。本書を読んで久々に将棋を指してみたいと思う人も少なくないのではないだろうか。
自分を見直すきっかけにもなるおススメの一冊である。