前川聡子著「企業の投資行動と法人課税の経済分析」
10月 28日 | 投稿者:T. H. | 書評昨今の法人減税改革について、「法人税を下げれば設備投資や対内直接投資が促され、経済活性化が期待できる」や、「外形標準課税を中小企業に広げることは、中小企業の設備投資を減少させ、日本の生産性を下げる」といった論調を耳にすることがあるのではないかと思う。理論的にはこのような主張は成立し得るとは思うが、現実の経済活動でそれが本当に正しいのか、と疑うことが1度や2度はあったのではないだろうか。
本書は、このようなもっともらしく聞こえる主張を、経済学のモデルと統計学(計量経済学)に基づいて、実証分析したものである。つまり、ビッグデータを利用して、これらの主張の妥当性を検討しているのである。出版されたのが2005年で少々古いが、今日の法人税改革を批判的に考える上で、大変意義深いものである。経済学的にも、それまでは行われてこなかった手法の計量分析が多数行われており、大変興味深い。ただ、数学を用いた厳密な証明が多数あるため、興味の無い方は読み飛ばして結論だけ参照するのも良いと思われる。
具体的には、上場企業の設備投資に法人減税が与える影響度合いを財務データを用いて定量的に分析していたり、中小企業への優遇政策の度合いを定量化すると同時に優遇されている中小企業の設備投資の効率性について分析している。前者を分析する上で、税制を考慮した、資本市場で評価した場合の投資の実質的な収益を表すtax-adjusted Qを利用している。後者を分析する上で、追加的な投資を行う際の資金調達コストを表す資本コストを利用している。平易な文体で記述されているため、両者の厳密な意味や数学的証明が分からなくとも、法人課税が企業の設備投資にどのような影響を与えているのか定量的に把握できる。
他にも、どのような外形標準課税が望ましいのかや、海外直接投資に法人税がどれほど影響を与えているのかについて、定量的に述べられている。本書を読み終えた時、法人減税について新聞やニュースでもっともらしく語られている主張の何が正しく何が間違っているのかを自分なりに判断できるようになり、主張をうのみにしていた状態から解放されるだろう。