大竹文雄著「経済学的思考のセンス お金がない人を助けるには」

10月 27日 | 投稿者:T. H. | 書評
Share on Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加
はてなブックマーク - 大竹文雄著「経済学的思考のセンス お金がない人を助けるには」

978-4-12-101824-3私たちのまわりには、運や努力、能力によって生じるさまざまな格差や不平等がある。本書は、それらを解消する方法を、人々との意思決定メカニズムに踏み込んで考えることによって、経済学の本質を分かりやすく解き明かす。』これが本書の目的である。堅苦しそうに思えたかもしれないが、『女性が背の高い男性を好む理由からオリンピックの国別メダル獲得数まで』親しみ易い内容を多く扱っており、しかも1つ1つのトピックごとに簡潔に述べられているため、経済学を学んでいる人はもちろん、そうでない方々も楽しみながら読めること、請け合いである。

重要な経済学的思考として、本書では「因果関係」と「インセンティブ重視の思考法」の2つをとりあげ、世の中の様々な現象の理解に役立てている。

「因果関係」については、イイ男は結婚しているのか?という問題の考察でも述べられている。イイ男は結婚している、という言葉を聞くと、イイ男だから結婚している、という因果関係を想定してしまいがちである。しかし、イイ男と結婚していることは相関関係を持っているにすぎず、因果関係の向きは不明である。むしろ、結婚することで仕事に専念できる環境を整えてもらった男性の経済力が高まり、イイ男になっていくとも考えられる。また、結婚市場でも労働市場でも評価される何らかの魅力が備わっている男性は、イイ男であるし結婚している、という見せかけの相関もありうる。そして、実際に因果関係があるのかないのか、あるとしたらどちらが原因でどちらが結果なのかを、データを用いて分析し、結婚が所得向上に影響しているという結論を導く。以上のように、経済学的思考を身につけていると、因果関係がどちら向きなのか、を検討することができうる。

また、「インセンティブ重視の思考法」で人々の意思決定メカニズムを捉えることで、社会現象の把握に役立つ例も記述されている。たとえば、賞金とプロゴルファーのやる気についてである。プロゴルファーのうち、最終日にプレーする選手を選別して同質的な能力をもつ者に限定し、賞金格差を大きくすることで、プロゴルファーに努力するインセンティブ付けをし、選手の高い成績を引き出している。このことは、企業において労働者の努力水準が不完全にしか観察できない場合に、彼らの努力を引き出す報酬制度として、労働者の能力が同質的な場合には、業績による高い賃金格差を設定することが、労働者の努力を促す上で望ましいことが分かる。実際、アメリカの企業では、最初から同質的な競争参加者を絞って昇進競争をさせており、上位の職の間の賃金格差を大きくするほうがよいことと対応しているかもしれない、と述べられている。

他にも、年金未納問題や年功賃金、そして本書のサブタイトルとも関係してくる所得格差と再分配について、経済学的な視点から述べられている。本書を読み終わるころには、女性はなぜ背の高い男性を好むのか、といった小ネタが多数手に入るだろう。また、世の中で暗黙のうちに当然とされてしまう因果関係を疑い考える力や、世の中の仕組みの背後にはどのようなインセンティブ付けが意図されているのかを考える力も備わっているかもしれない。

Comments are closed.

Produced by PE&HR Co., Ltd. [PR] 成長ベンチャーの求人・転職支援サイト