ユニクロが生まれ、世界企業になった理由。-誇大妄想というほどの巨大な夢と圧倒的な読書量-
6月 30日 | 投稿者:Ryojiro Yamamoto | 成長企業研究, 書評, 起業家『柳井正の希望を持とう』
柳井正著(朝日選書、2011年)
ユニクロについて、オーナーでありCEOでもある柳井正氏について、今さら説明はいらないだろう。しかし、この僅か200ページ余りの新書には、人口17万人の小さな地方都市で生まれた一商店が、なぜかくも世界中で愛され、今もあくなき拡大を続けているのか、その理由と秘密が、余すことなく語られている。
柳井氏は大企業を受け継いだ御曹司でも、エリートコースを突き進んできた人間でもない。縁故で入った会社を9ヶ月で辞めて宇部に出戻り、父親が経営する2つの店を任されただけの、「町の紳士服屋の主人」でしかなかった。しかし、既製服の仕入れと販売という非効率な商売の中で、徐々にベーシックな商品に対する期待を抱くようになり、品質の良い商品をリーズナブルな値段で毎年売っていくことができれば儲かる、と考え始めるようになる。地方での、さして競争力もない(ただのスーツ店とトラッドショップである)店舗経営の日々そのものの中に、無駄と課題ばかりの日常の繰り返しの中に、「ユニクロ」の、またSPA(製造小売)の原型が宿っていたというのである。
わずかな社員数の(若く頑固な柳井氏を古くからの社員は嫌い、一人を残し全員が辞めてしまったという)零細企業の社長でしかなかったその頃から、「ひょっとしたら、将来は1兆円の売上がある会社を率いることができるかもしれないと思い」、誰にも言わなかったが「世界を相手に商売をしようとずっと考えていた」という。途轍もない夢を掲げ、若い頃から準備し、勉強を続けてきた者にだけ、チャンスは訪れると書かれている。
20代半ば頃からの一貫した考えだろうが、まずここに、町の零細企業がユニクロへ、そして世界企業へと発展してゆく秘密が隠されているように思える。
それでは、来るべきその日のために、柳井氏はどのような準備と勉強をしてきたのだろうか。
まず「現場から学ぶ」。そして「目的を持って人に会い教えを請う」。あわせて重要なのが、「本を読む」ことだと柳井氏は強調する。松下幸之助、本田宗一郎、レイ・クロック、ハロルド・ジェニーンなど経営者の書いた本を、「書いた人と対話する」ように読むのだという。例えば『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』は、「一軒のレストランで職人的に作っていたハンバーガーという商品をベンチャー起業家が産業化し、世界に普及させるストーリーに自分の将来の姿を重ね合わせ」て夢中で読んだ。ドラッカーへの傾倒も有名だ。「ドラッカーは経験することもなく、理論的、抽象的に考えて、経営の極意というものにたどりついている」。
今も夕方会社を出ると、夜の付き合いも財界人との会食もせず、そのまま自宅に帰り、ひたすら本を読むのだと書かれている。上場して一番嬉しかったことは「これからは本屋に行っても、好きなだけ高価な本を買うことができる」と思ったことだというくだりに至っては、インターネット書店の店員として鳥肌が立つ。一流の経営と深い読書との間には、間違いなく関連がある。
最後に、組織と店舗運営について少しだけ紹介したい。それは、本書には勿論、『成功は一日で捨て去れ』でも、『柳井正 わがドラッカー流経営論』でも、『一勝九敗』でも、一貫して語られている思想である。即ち、顧客と接する店舗を経営する店長こそが主役であり、社員の最終目標でなければならない。「本部」という肩書きを持った途端に自らが優位にあると勘違いし、本部は計画を立案し、管理し、指示し、一方の店舗はその実行部隊であるという、とんでもない時代錯誤を徹底的に非難する。「店長が本当の商売人である」という柳井氏のこの考えこそが、ユニクロの販売力の強さと組織の正しさの源泉であろう。
ユニクロという世界的革新は、2店舗の日常から発した「巨大な夢」と、地道かつ膨大な「日々の読書」から生まれたものである。2軒の店主になる機会と、読書を愛するつましい生活なら、誰しも手にすることはできる。そうであれば、ユニクロの成功は特別なことではない。