戦略とは、捨てることなり

12月 23日 | 投稿者:店長 | 書評, 経営学 タグ: ,
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トレードオフ
トレードオフ 上質をとるか、手軽をとるか
ジム・コリンズ序文、ケビン・メイニー著、有賀裕子訳(プレジデント社)

<競争戦略>を考える際に有用なフレームワークが書かれています。企業や商品が成功あるいは失敗に至った豊富な事例をもとに、斬新かつシンプルな戦略コンセプト(概念)を提起しています。

ビジネスを成功に導くのは上質と手軽の二者択一(トレードオフ)にあるといいます。
上質とは、(得がたい)経験+オーラ+個性であり、愛されるモノやサービスです。手軽とは、入手しやすさ+安さであり、必要とされるモノやサービスです。どちらも中途半端な状態を不毛地帯と呼び、不毛地帯にある商品では市場で勝ち残れないことを示しています。上質かつ手軽を極めることは不可能で、事業は迷走し失敗するとも書かれていました。
上質か手軽を決めるのは提供者ではなく、消費者です。年齢層、所得、地域などによっても上質さや手軽さの捉え方が異なりますし、イノベーションやテクノロジーの進歩により上質さや手軽さの基準が変化することも頭に入れて考えなければなりません。

さて、本書の序文は『ビジョナリーカンパニー』の著者ジム・コリンズが執筆しています。偉大なる企業の成長の軌跡を研究し尽くした彼の著書は、世界中の数多くの起業家・経営者に影響を与えた経営書の一冊と言えるでしょう。メイニーはコリンズから聞いた「ハリネズミの概念」「階段の概念」が心に響き、数多くの成功・失敗体験を取材してきた自身の経験と照らし合わせ「トレードオフ」というコンセプトを生み出しています。

本書で印象深かったのは、サンマイクロシステムズが圧倒的優位に立っていたサーバー市場においてIBMが取った戦略です。IBMの高性能・高価格路線は顧客の心を捉えることはできていなかったようです。顧客は、満足できる性能を手頃な価格で提供していたサンを選んでいました。大多数の顧客にとってサンの提供していた性能で十分に上質だったわけです。そこで、IBMは手軽さに舵を切り、オープンソースOSリナックスを採用して、価格を抑えることに成功しました。その結果は書くまでもありません。
また、上質さを売りにしたアメリカン航空が破格の航空会社ピープル・エクスプレスに対抗するために取った戦略も興味深い事例でした。低価格のライバル商品に対抗する手段として生み出されたイノベーションが「イールド・マネジメント」というシステムです。繁閑による座席稼働率に基づき、航空券の価格が変化する販売手法です。これによりサービスの質を落とさずに、低価格で空の旅を楽しみたい学生から、コストよりも時間を重視するビジネス客までを取り込むことに成功しました。ピープル社は対抗できず市場から姿を消しました。

本書は具体的な戦略を構築するための手引き書ではありません。しかし本書には、アマゾン、スターバックス、コダック、ウォルマート、アメリカン航空などの競争戦略、ブルーレイ、iphone、キンドルなどのテクノロジー商品のコンセプト、ティファニー、COACHなどのブランド形成、ロックフェス、教育界(大学)等におけるトレードオフの豊富な事例が書かれています。これらを通じて、自社や競争相手がトレードオフのどこに位置づけられ、今後自社が目指すべき方向を考えることが実践で役立つ本書の使い方だと思います。

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