芸術家のための起業論、起業家のための芸術論-作品が16億円で落札されるまでに-

2月 25日 | 投稿者:Ryojiro Yamamoto | 書評, 起業家
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芸術闘争論芸術闘争論

村上隆 著

2008年5月、ニューヨークのサザビーズで、村上隆氏による等身大フィギュア「マイ・ロンサム・カウボーイ」(1998年制作)が約16億円で落札された。本書の前著にあたる『芸術起業論』(幻冬舎、2006年)には、当時1億4,400万円で落札されたペインティング「NIRVANA」が、「日本人の一つの芸術作品としては史上最高額の価格」と書かれているので、その後の2年間で世界的評価がより一層劇的に高まったことが窺える。昨年は、賛否を呼んだベルサイユ宮殿での展覧会もあった。

自らの耳を削いでまで芸術に命を賭けたゴッホの時代と同様に、村上氏も36歳頃まで「コンビニの裏から賞味期限の切れた弁当をもらってくるような」生活をしていたという。芸術的才能が世に出るまでには長い雌伏の日々があり、加えて金余りの現代には、芸術家は豊かさとも闘わなければならず、「芸術家の実践は経済構造にまで迫らなければならない」とするのが前著にも通底する本書の主要なテーマである。

作品が16億円で落札されたと言っても、それが全て芸術家の懐に入る訳ではない。例えば、5,800万円で落札された「ヒロポン」の場合、画商を通じて最初に売れたときの価格は(文脈からおそらく)360万円で、その50%、たったの180万円だけが芸術家の取り分となる。原価180万円の商品が、数年で5,800万円になり、時には16億円にまでもなり得るのが現代ARTである。まるでベンチャー投資のような世界だが、芸術家(起業家)の実入りはあまりに少ない。村上氏や一部の先進的な芸術家は、最初の顧客に芸術家が直接5,800万円で売れるようにするための様々な挑戦を始めている。

しかし、ひと口に作品を売って金を儲けるというが、と村上氏は続ける。「自分の持つ正義への忠誠心に忠実に生き、こつこつとモノを創造し、社会に問い、そしてその問いかけに対しての評価が下る。良い時も悪い時も、自分の正義に忠実であってそれが社会から信用を勝ち得た瞬間しか儲けを手に入れることはできません」。

現代ARTの評価は、「構図」「圧力」「コンテクスト」「個性」の4つで決まる。これまで日本の芸術家が海外で評価されてこなかったのは、世界基準の(欧米流の)文脈を学び理解した上で、自国の文化や歴史、あるいは先達が極めた表現を、多層的、重層的なコンテクストとして埋め込んだ作品を創り、プレゼンテーションしていくことへの理解と努力の欠如が原因だという。これから日本人が、あるいは日本の起業家が、日本の何をどのように世界に発信しセールスしていくべきかを考える上でも、現代ARTで試された村上氏の戦略と方法は多くの示唆を与えるだろう。

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