大山典宏著「隠された貧困 生活保護で救われる人たち」
11月 7日 | 投稿者:T. H. | 書評私たち一般的な市民から「隠された」貧困とは何か・・・格差の拡大についてメディアでもよく見かける話題となり、近年人々の間で共有されるトピックとなりました。私個人も貧困問題に関心があり、それなりに知っていたつもりだったので、私のまだ知らない「隠された」貧困とはどのようなものだろうと思い、手にとりました。
この本で取り上げられていたのは、児童養護施設出身者、高齢犯罪者、薬物依存者、外国人貧困者、ホームレスなど、私たちの多くが普段見て見ぬふりをしている方々です。「本人だけに責任がある訳ではない。社会の矛盾ともいうべき課題があるのも、なんとなくは想像できる。でも、それが今日明日にどうなる訳でもないから、私が考えてもどうしようもないから、だから目をそらして、『なかったこと』『聞かなかったこと』にする。」そんな普段私たちの多くが「いなかった」ことにしている方々の生い立ちと苦悩と再生を丁寧にルポしつつ、制度の現状や問題点を記述しています。著者自身が現場で実際に彼ら彼女らと向き合ってきたため、生活保護に関する一般論に終始せずに、彼ら彼女らが何をどう考え感じており、私たちがすべきことはどのようなことなのかについての示唆に富んでいます。
この本は軽い気持ちで読める本ではありません。私たちが自分とは関係のないこと、できれば目をそらしたいと思っていることを克明につきつけてくる本です。しかし、想像してみてください。あなたがどれだけ成果を出しても会社からあなたが「いなかった」ことにされている状況。あなたが一生懸命家計をやりくりしつつおいしいご飯を作っても、家族からはあなたが「いなかった」ことにされている状況。あなたがお年を召して、周囲にも知り合いがおらず頼みの離れて暮らす子供や社会からあなたが「いなかった」ことにされている状況。私ならこのような状況に10年20年も耐え続けることなどできません。ですが、あなたがこのような生活保護受給者から目をそらして「いなかったこと」にし続けることは、上記のような状況を作り出し、その人の人格を破壊する行為です。
「ホームレスなんて、怠け者なだけだ」、「外国人が日本人の税金から生活保護を受けるなんて、けしからん」 このような主張は正しい部分もあれば間違っている部分もあります。相手を「いなかった」ことにして深く知ろうともせずにした挙句、ひとくくりにしてこのような主張をすることは、誤解や偏見を生み、生活保護受給者に対する周囲の方々の承認意欲の低下を招きます。もし、あなたがこのような方々を「いなかった」ことにしているのであれば、まずはこの本を通じて生活保護受給者の生の声をきくことことからはじめてはいかがでしょうか。