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『お金の流れが変わった!　新興国が動かす世界経済の新ルール』

大前研一 著

世界的に著名な経営コンサルタントの大前研一氏が、「ホームレスマネー」をキーワードに、近年の世界的な経済情勢について分析・解説を行い、日本の成長戦略についても提言している。

今日の世界的な経済現象には「ホームレスマネー（著者造語、一般的にはホットマネー）＝投資先を探して世界をさまよっている不要不急のお金」が決定的な役割を果たしている。サブプライムローン問題とリーマンショック、中国をはじめとするアジア諸国の急成長、アイスランドの破綻、さらにはナイジェリア株式インデックスの世界一の上昇（2007年）や鉱物資源・石油・食糧などの先物市場の高騰、モスクワやソフィアなどの各国都心部における10～100倍の地価上昇など、これらは全てホームレスマネーの動きに大きく起因する。ホームレスマネーは先進国の余剰資金（年金・保険金）、中東のオイルマネー、輸出で大きく積み上がった中国の準備外貨を主な出所とし、その規模は最盛期で6,000兆円、リーマンショックで減少したものの回復してきてた現在では4,000兆円にものぼる。今後はVISTAなどの新興国に向かうことが予想される。

一方で、国の（マクロ）経済政策が機能しなくなっている。お金の動きのボーダーレス化、企業活動のサイバー化（DELLやZARAのようにジャストインタイムで生産）によって、例えば金利を下げても、国内企業は生産を増やして在庫を持っておくことをせず、資金は高い利回りを求めて海外に流出、国内経済の刺激には全く効果が無いといったことがおこる。またマルチプル（倍数）化、つまりレバレッジを効かせられることによって、ジョージ・ソロスの例で有名なように、評判の経営者やファンドマネージャーの元に資金が集まり、それが国を相手にできるほどの威力を持つようになっている。

このように、著者は時代はこれまでと全く違う局面に入ったと分析する。そうした中、日本の経済成長のためには、日本人の世界観のチェンジが必要であり、税金を経済成長の原資にするという発想を根本からやめ、4,000兆円のホームレスマネーや日本特有の強みである1,400兆円の個人金融資産を活用することが重要であると主張している。具体的施策として、私鉄や各種プラントのファイナンスとのセットでの輸出、都市部の再開発（容積率や土地利用規制の権限を基礎自治体へ委譲）、資産課税の導入と相続税贈与税の廃止軽減（世代間資産の移動と消費促進）などが提言されている。

経済成長のためにはホームレスマネーをうまく活用する必要があることが、説得力を持って述べられている。しかしながら、著者が「恵み」と言うホームレスマネーに対して、問題点も感じずにはいられない。

というのも、本書でも触れられているが、ホームレスマネーがウォール街のわずか600人ほどのファンドマネージャーによってコントロールされており、しかも彼らの運用方法が、アセット・アロケーション理論に基づくプログラム売買、つまりはマネーゲームなのであって、お金が集まりそうな兆しをいち早く嗅ぎ取り、だれよりも先に資金を入れることで、できるだけ大きくサヤを抜くことを最大の目的としているからである。あまりにも短期的で規模の大きな資金の動きについては、管理できるような仕組みを構築する必要もあるのかもしれない。